
【 ウスバシロチョウ Parnassius citrinarius 】
それでもぼくはいつにないのびやかさを感じていた。草原からは、初夏の風から生まれたようなウスバシロチョウが
清楚な半透明の翅をゆるやかにうちふっていくつも飛びたった。
Parnassius というその属名は、あのアポロンの山、詩神の山の名称である。事実、蒐集家の珍重する近似の種類はアポロチョウとよばれ、
その純白の翅に動脈血のような紅斑と黒壇のような縁どりをもっている。残念ながら日本にはアポロチョウはいない。
その代り、内地産のこの唯一のパルナシウスには美麗なアポロチョウには見られない洗練された上品さと優雅さがある。
一匹のウスバシロチョウが道案内をするようにぼくの目前をとんでいた。
道が折れまがると、またもや蝶はこちらにいらっしゃいというように、道につれてふわふわと漂ってみせた。
たしかにそれは漂っているというのが当たっていた。透明な大気がその軽いからだをささえ、あるかないかの風がすこしずつ彼女をはこんでいった。
北杜夫著 幽霊―或る幼年と青春の物語― より。
OM SYSTEM OM-1 + M.ZUIKO 8mm FISHEYE プロキャプチャーモード
東京都
- 2022/04/28(木) 20:09:29|
- チョウ
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